極東製薬工業株式会社

  • ホーム
  • 細胞培養受託製造
  • 細胞培養製品一覧
  • 技術情報
  • ペプトン・エキス製品一覧
  • KYOKUTOブログ
  • お問い合わせ

KYOKUTOブログ

極東製薬工業(株)公式ブログです。
当社と関わりのある先生方からの投稿記事や、当社の細胞培養オタク研究員のつぶやきを紹介致します。

細胞培養 特別講義

研究開発情報

製品情報

 · 

【特別講義 第16回】ES/iPS細胞から神経幹細胞を誘導する

 講師は前回(細胞培養 特別講義 第15回)に引き続き、順天堂大学の赤松和土先生です。前回は、神経幹細胞の特徴やマウスからの単離培養法、ニューロスフェア法による培養法などをご紹介いただきました。

 今回は、ES/iPS細胞から神経幹細胞を誘導する方法をご紹介いただきます。ヒトiPS細胞が樹立された当初、どのように神経幹細胞を誘導し、どのくらいの時間がかかったのでしょうか。また、当時の問題点はどのように改良されてきたのでしょうか。

 大変興味深い内容となっておりますので、ぜひお楽しみください。

 

■ 講師紹介ページ:順天堂大学 赤松 和土 先生

 

第15回 神経幹細胞を培養する 

 

 ES/iPS細胞から神経幹細胞を誘導する 

順天堂大学大学院 医学研究科

ゲノム・再生医療センター 特任教授

赤松 和土 先生

 

 

 ES細胞は体細胞の全ての種類の細胞に分化誘導可能な細胞であり、1981年にEvansらによって初めてマウスで樹立された。以降Capecchiらによりノックアウトマウスの作製に用いられる重要な技術となった。ヒトのES細胞は1998年にThomsonらによって初めて樹立され、その頃から再生医療用途としてのin vitroでの分化誘導が着目されるようになる。少し遡る1995年に、EC細胞で用いられていた分化誘導系を参考にマウスES細胞から胚様体を経由してレチノイン酸を添加することにより神経分化が誘導されることが報告されている(文献1)。

 

ES細胞からの神経分化誘導方法は様々な方法があるが、共通するのは初期の神経誘導を抑制することが知られるBMPシグナルを何らかの方法で阻害することである。脊椎動物の初期の発生過程において神経誘導活性のあるオーガナイザーから分泌される神経誘導因子が何かは長らく不明であったが、1980年代にNoggin, Chordin, FollistatinがいずれもBMPシグナルを阻害することによって神経分化を誘導することが明らかになった。いわゆるdefault modelと呼ばれるモデルが確立され、この考え方が低密度培養やNogginの添加などでBMPシグナルを阻害するとES細胞が効率よく神経分化誘導されるという手法の確立につながっている。

 

マウスではKawasakiらによるPA6細胞をフィーダーとしたドーパミンニューロンの誘導(文献2)、Tropepeらによる低密度培養を用いた方法(文献3)などが2000年代初めに報告された。前者の方法はSDIA(stromal cell derived inducing activity)法と呼ばれているが、PA6細胞から神経分化誘導を促進する因子が分泌されていると推測されている。後者の方法は単離したES細胞を低密度浮遊培養してBMPシグナルを阻害し、幼若な神経幹細胞(Primitive Neural Stem Cell; pNSC)に転換させニューロスフェアを形成させる方法である。pNSCは通常の神経幹細胞が成長因子として要求するFGF-2だけでは増殖しニューロスフェアを形成できず、ES細胞の未分化維持因子であるLIFを生存因子として添加した場合のみニューロスフェアを形成する点が特徴である。

 

 その後、ヒトiPS細胞が2007年に報告され、ヒトES細胞とほぼ同一の手法で神経分化が可能なことが明らかになってきた。ヒトES/iPS細胞において接着培養によって神経幹細胞/前駆細胞を維持する方法が報告され(文献4)、一方でヒトiPS細胞から胚様体を経てニューロスフェアを形成する方法で誘導した神経幹細胞は、脊髄損傷モデル動物の運動機能を回復させることが示された(文献5)。

 

当時の方法ではヒトES/iPS細胞から移植可能な神経幹細胞を誘導するまで3ヶ月程度を要していたが、iPS細胞を用いた再生医療前臨床研究および疾患研究が進展するにあたってより効率の良い神経分化誘導方法の開発が求められた。筆者らはマウスES細胞で行われていた低密度でBMPシグナルの影響を排除する方法をヒトiPS細胞に応用し、低酸素培養を併用することにより従来よりも短期間で神経幹細胞を誘導することに成功した(文献6)。

 

ヒトiPS細胞はクローンによって分化指向性が異なる上に、由来細胞によっても分化傾向が大きく異なっていたため、線維芽細胞由来のiPS細胞と血球由来のiPS細胞で分化傾向が異なることが問題になりつつあった。2010年に血球から安定してiPS細胞を樹立する技術が開発され、検体採取が簡便である血球由来のiPS細胞が主流となることは明らかであったが、従来の方法では血球由来のiPS細胞は胚様体を形成させた際に含まれる外胚葉系の細胞が少ないために、その後の神経誘導の効率が極めて低かった。筆者らの方法はBMPシグナル阻害によって未分化なiPS細胞を神経分化誘導するため、iPS細胞の由来細胞によるこのような分化誘導効率の差を無視できるまで小さくすることができた。

 

 現在でもヒトiPS細胞の神経分化誘導方法の改良は続けられており、効率よい神経分化誘導法にはNogginだけでなくLefty/Activin/TGFβ経路阻害剤であるSB431542を組み合わせるdual SMAD inhibitionといわれる方法が良く用いられている(文献7)。さらに高価なNogginを安価な化合物であるdorsomorphinに置き換えることによっても神経分化誘導が促進されることが明らかになっており、現在ではdorsomorphin/ SB431542の組み合わせが最も一般的である。このような神経分化誘導方法の改良が実際のiPS細胞を用いた再生医療前臨床および疾患モデルにどのように用いられているかを次回は紹介する。

 

【文献】

1.        Bain, G., Kitchens, D., Yao, M., Huettner, J. E. & Gottlieb, D. I. Embryonic stem cells express neuronal properties in vitro. Dev. Biol. 168, 342–57 (1995).

2.        Kawasaki, H. et al. Induction of midbrain dopaminergic neurons from ES cells by stromal cell-derived inducing activity. Neuron 28, 31–40 (2000).

3.        Tropepe, V. et al. Direct neural fate specification from embryonic stem cells: A primitive mammalian neural stem cell stage acquired through a default mechanism. Neuron 30, 65–78 (2001).

4.        Koch, P., Opitz, T., Steinbeck, J. A., Ladewig, J. & Brüstle, O. A rosette-type, self-renewing human ES cell-derived neural stem cell with potential for in vitro instruction and synaptic integration. Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A. 106, 3225–30 (2009).

5.        Nori, S. et al. Grafted human-induced pluripotent stem-cell-derived neurospheres promote motor functional recovery after spinal cord injury in mice. Proceedings of the National Academy of Sciences 108, 16825–16830 (2011).

6.        Matsumoto, T. et al. Functional Neurons Generated from T Cell-Derived Induced Pluripotent Stem Cells for Neurological Disease Modeling. Stem cell reports 6, 422–35 (2016).

7.           Chambers, S. M. et al. Highly efficient neural conversion of human ES and iPS cells by dual inhibition of SMAD signaling. Nat. Biotechnol. 27, 275–280 (2009).

 

 

当社Facebookページをフォローしていただきますと、Kyokutoブログ等の情報をいち早く入手できます。こちらもどうぞご覧ください。

 

極東製薬工業(株)産業営業所 Facebook ページ

 

この記事に関するお問合せはこちら

cellculture@kyokutoseiyaku.co.jp

 

 

過去記事

【特別講義 第25回】竹内先生インタビュー連載記事Vol.2

【出展案内】 11/25-27 バイオEXPOに出展します!

【お知らせ】順天堂大学およびJUNTENBIOとの共同研究について

【出展案内】再生医療JAPAN/BioJapanに出展します!

【お知らせ】ペプトン・エキスのご紹介

【特別講義 第24回】竹内先生_インタビュー連載記事Vol.1

【講師紹介】東京大学 竹内 昌治 先生

【お知らせ】受託サービスのご紹介

【特別講義 第23回】iPS細胞から誘導した次世代型膵島の臨床応用を目指して

【出展情報】第19回日本再生医療学会総会に出展しております

【お知らせ】総合パンフレットのご紹介

【特別講義 第22回】iPS細胞から膵島の大量培養法の開発

【出展情報】再生医療EXPO大阪に出展しております

【出展案内】2/26-28再生医療EXPO大阪に出展します!

【お知らせ】東京女子医科大学と共同研究開始

【特別講義 第21回】今なぜiPS細胞から膵島作製が必要なのか?

【講師紹介】国立国際医療研究センター研究所 大河内仁志先生

【出展情報】第42回日本分子生物学会

【特別講義 第20回】ありふれた「先輩との出会い」

【出展報告】再生医療JAPAN

【出展案内】10/9-11再生医療JAPANに出展します!

【特別講義 第19回】ありふれた「恩師との出会い」

【技術情報】Stem-Partner SF/ACF(ラミニン添加法)

【出展情報】バイオ医薬EXPO開幕しました!

【出展情報】バイオ医薬EXPO

【特別講義 第18回】ありふれた「細胞との出会い」

【講師紹介】物質・材料研究機構 谷口彰良先生

【出展情報】輸血・細胞治療学会に出展中です

【掲載情報】PHARMSTAGE (2019.3)に掲載されました

【新製品情報】凍害保護液

【出展情報】日本再生医療学会に出展中です

【出展情報】日本自己血輸血学会に出展します

【出展情報】再生医療産業化展に出展します

【特別講義 第17回】iPS細胞から分化した神経系細胞を用いた再生医療前臨床および疾患モデル研究

【新製品情報】ヒトiPS/ES細胞用培地

【特別講義 第16回】ES/iPS細胞から神経幹細胞を誘導する

【特別講義 第15回】神経幹細胞を培養する

【講師紹介】順天堂大学 赤松和土 先生

【出展報告】再生医療JAPAN 2018

【出展案内】再生医療JAPAN 始まりました

【お知らせ】細胞培養関連サイトのデザインが変わりました

【掲載報告】9/27「化学工業日報」再生医療特集に掲載されました

【出展案内】再生医療JAPANに出展いたします

【掲載報告】9/10「化学工業日報」に掲載されました

【お知らせ】展示会出展のご報告

【お知らせ】特設サイトオープンいたしました

【お知らせ】バイオ医薬EXPOスタート

【お知らせ】日本組織培養学会に参加しました(6/25)

【お知らせ】展示会のご案内(6/21)

【お知らせ】技術情報の更新(4/16)

【特別講義 第14回】常在菌と病原菌の狭間(後編)

【お知らせ】ニュースリリース更新のお知らせ(4/2)

【特別講義 第13回】常在菌と病原菌の狭間(前編)(2/8)

【講師紹介】東京女子医科大学 菊池賢先生(1/23)

【お知らせ】CP-1がMFに登録されました

【特別講義 第12回】腸上皮培養の今後と応用(10/31)

【特別講義 第11回】 腸上皮オルガノイド培養 (09/29)

【特別講義 第10回】 腸上皮組織と幹細胞 (09/08)

【講師紹介】東京医科歯科大学 中村哲也先生(09/08)

【特別講義 第9回】なぜT細胞だけが胸腺で分化するのか (06/26)

3製品の技術情報ページを更新しました! (06/16)

【特別講義8】免疫反応の制御と制御制T細胞 (02/24)

【主席研究員部屋7】 水は培地の生命です (01/18)

このページのTOPへ

細胞培養

  • 受託製造
  • 製品一覧

ペプトン・エキス類

  • 製品一覧

KYOKUTOブログ

  • 細胞培養 特別講義
  • 研究開発情報
  • 製品情報

お問い合わせ

  • お問い合わせ一覧
  • ご利用に当たって
  • 個人情報について